サーマルカメラと放射率

サーマルカメラを扱う上で重要な赤外線の放射率の話をします。

赤外線の放射率は、サーマルカメラで温度を計測する際の精度に関係する非常に重要な特性値であり、厄介なものでもあります。

赤外線で物体の温度を知ることはできない!?

サーマルカメラの最も基本的なこととして、サーマルカメラは赤外線を撮影します。
すべての物体は赤外線を自然に放射しています。
可視光線は光源から反射した光がないと物体が見えませんが、赤外線ではすべての物体が光源になっていることが可視光線との大きな違いであり、暗闇でもサーマルカメラで撮影が可能な理由です。

サーマルカメラからの生の出力対して放射率を適用することで、計測対象の温度に近づけるのが放射率の役割です。

過去に弊社のサーマルカメラの開発にご協力頂いた大学の先生に、最初にこう言われました。

「そもそも赤外線で物体の温度を知ることはできません」

当時サーマルカメラの開発に取り組み始めた私にとっては、衝撃的な言葉でした。
赤外線によって温度を知ろうとする際には様々な障壁がある。
温度を実際に知ることは不可能だけれど、様々な工夫をして何とかそれらしい温度を計算しているとのことでした。

そして温度を知るための工夫の最も基本的な要素が放射率です。
物体自身が持つエネルギーに対して、どの程度外側に赤外線を放射するかを表すのが放射率です。
放射率は0から1の値です。
放射率が最大値の1の物体は実在しませんが物理学な概念として「黒体」と呼ばれます。
黒体は自身のエネルギーを最大限に外側に放射します。

シュテファン・ボルツマンの法則

サーマルカメラからの生の出力は赤外線強度を表すもので、温度を知るには赤外線強度を温度に変換する必要があります。
通常サーマルカメラの出力は黒体を基準に出力が調整されています。
そのまま温度に変換すると黒体を前提にしているから最大限に赤外線を放射している場合の温度になります。

しかしながら実在の物体は放射率が1未満なので、サーマルカメラが受光した赤外線強度よりも実際には大きなエネルギーを持っていることになります。
そこで計測対象の物体の放射率を適用して、より期待値に近い温度を計算します。
放射率を適用するには「シュテファン・ボルツマンの法則」を利用します。
計算式は以下のとおり単純です。

T' = ε x (T ^ -0.25)

T' : 計測対象の温度
ε : 計測対象の放射率
T : サーマルカメラの黒体基準の出力
"^" : 累乗の記号

弊社のサーマルカメラOWLIFTのアプリでは上記の計算式を用いています。

OWLIFT SDK で温度テーブルを直接取得する場合は、上記の計算式を用いて補正する必要があります。

放射率の厄介な点

ところで放射率は物体に固有の値であり、物質・表面の粗さ・色などに影響を受けます。
すなわち、放射率を知ることは非常に困難であるということが分かります。
これが放射率の厄介な点です。

例えば人間の肌の放射率は約0.98とされていますが、肌の状態は個人差や体調で千差万別なので、計測する時点で特定することは困難です。
例えばサーマルカメラで放射率適用前に34℃と計測された場合、上記の式に当てはめると放射率が0.97と0.98の間では0.8℃結果が異なります。
体温が0.8℃も異なれば実用上無視できない違いです。

他に難しい例として、光沢のある金属では放射率が例えば0.2などと非常に小さい値になります。
放射率が小さいほどシュテファン・ボルツマンの法則で補正する幅が大きくなり、一緒に誤差も大きくなるため、実用的には放射率0.90前後が下限となります。
対策としては放射率が既知である黒体シールや黒体スプレーを利用して、放射率を一定かつ大きくします。